『降っても晴れてもコベントリー』。旅行中、私の頭の中にはずっとこのフレーズがあった。旅行の支度をしている時に、どこかの英文サイトをwebページ翻訳で訳したところ、画面の隅にこの言葉が表示された。英文はなんだろ?『rain or shine』だと思うけど調べ直さなかった。でもこの日本語の『降っても晴れてもコベントリー』の響きが気に入った。
出発前にチェックしていた天気予報では、コベントリーに滞在している間中が雨と予想されていた。もちろん晴れるといいなと思っていたけれど、たとえ雨の中だったとしても、それが最後のPHISHだ。



8月12日@日本

08:45 静岡発のひかりに乗って東京駅へ

10:03 成田エクスプレスに乗り換え、成田へ

11:15 今回旅を共にする2人と合流。何度か会っているたつにぃと、今回が初対面のしおちゃん。


緊張のしおちゃん

しおちゃんとは、PHISHではないトレードで、つい最近知り合った。
彼は、生PHISH未体験で、海外旅行経験がなくて、運転免許も持っていないのに、コベントリーのチケットは購入していた。とりあえず、何から手をつけていいやらという感じで私にメールが届いた。
こちらはそのときすでに飛行機とレンタカーを手配済、しかも今のところ3人の予定だったので、「エアチケットの日程さえ会えば一緒に行こう」と誘った。
結局、エアは行きが私達よりも2時間後発、バーリントン着が私達の6時間後で手配できた。
たつにぃとは、PHISHジャパンツアーのトレードで知り合ったのが最初だったと思う。以来ずっと、メールをやりとりしたり、ライブで会ったりする良き友だちだ。
しおちゃんと、コベントリーで初めて会うというのもちょっとなぁということで、しおちゃんにも私達の出発便に合わせて空港にきてもらった。
4人で軽く昼食を食べて少しのんびりしたら、もうけっこういい時間。しおちゃんに「チェックインとトランジットがんばれ。バーリントンで会おう」と言い残して私達はチェックイン。


14:10 成田離陸。


機内に乗り込むとすぐに、MINAWAさんあゆみちゃんが私達に手を振っている。MINAWAさんとは初めましてのあいさつ。他のお客さんもどうもPHISHに向かうような人が多い。しかし、意外に魚Tシャツは少ない。私は、迷いに迷った結果、ものすごくわかりやすい魚を着ていったのに。


ひさしぶりのユナイテッド。
軽食はこれ。「きつねらあーめん」。のばすとこ違うし・・・。
でもこれ、東洋水産が作ってんだよね。
だからスープとおあげは「赤いきつね」味だった。でも、麺はラーメンの麺。
なぜうどんにしないのか?!そしてこれはチャイニーズヌードルというのか?
突っ込みどころ満載だけど、味はまあ普通においしかった。プラスバナナという組み合わせもなかなかいいセンス。


機内では、『ギャラクシークエスト』と『ジャージーガール』を見た。前者は公開中に見逃していたのでラッキーだった。超くだらないコメディ−映画。こういうの大好き。ジャージーガールは家族愛もの。日本じゃ映画館公開はしなかったのではないか?まあ普通におもしろかった。
11時間程のフライトの後、トランジット場所のシカゴに到着。
入国審査はけっこうな列になっていた。その列で、私達の前に並んでいた日本人の魚釣り団体に話し掛けられる。「どこからですか?」「静岡です」「まゆさん?」「そうです」「どーも、かごたです」とかごたさん。以前にトレードでお世話になったかごたさんだった。会って話すのは初めて。こうして声を掛けていただいてうれしい限り。こんな顔でもネットで公表している甲斐があるってもんです。
簡単なあいさつの後は、お互いの今後のスケジュールなど話す。かごたさんグループは今晩のホテルを手配済なのだけど、キャンセルして出発しようか迷っていた。疲れているし、一晩寝るのもいいかもしれない。どうやら帰りの飛行機も同じ便のようだった。
シカゴのトランジットは1時間程しかなくて、かなりギリギリの手続きだった。ターミナル移動もモノレールみたいなものに乗ったりして本当に遠かった。なんとか間に合ったけれど、シカゴのオヘア空港は広かった〜。



8月12日@Vermont

16:15 16時31分の到着予定が、少し早く着いた
(と思うが記憶があいまい。同じエアだった方、違ってたら教えてください)。


荷物を受け取ると目の前がレンタカーカウンター。けっこう混んでいる。
しかし、ハーツの受付の人は親切だった。私のダメダメ英語にも丁寧に答えてくれた。そして、PHISHのためにコベントリーへ向かう道順をプリントしたものをくれた。地図にもマーカーで「ここを通るのよ〜」と道をなぞって書き記してくれた。まあこの地図が後の行程の運命をわけるわけですが。
無事にレンタカーを借りて、とりあえず買い物をしようとバーリントンのダウンタウンに向かう。どの辺に大型スーパーがあるかとかまったくわからないので適当に走る。
雨も降っているし、近くに路駐してプラプラする。


PHISHが昔演奏していたというNectar'sに行ってみた。
入り口は2つに別れていて、中でまたくっついている。右に入るとバーとステージ。左はレストラン。


とりあえず左に入るとTシャツが売っていたので買ってみた。店の人に「PHISHに行くの?」と聞かれたので「そうだよ」と言うと、「終わったら友だちも誘ってまた来てくれ」というような事を言われて、店の案内をもらった。
お客さんは、大量のチーズで物体がみえなくなっている何かを食べていた。「何か」はわからないけれど、とにかくこってり濃そうなもの。




別のバーにもこんなチラシが。


ここは、この看板につられて中に入ったけれどカエルはいなかった。アーティストものの雑貨屋だった。
置いてあったものは、どれもけっこう高価。


本屋さんのディスプレイでもPHISH。


近くにスーパーを発見したので、水、トイレットペーパー、パン、チーズ、ハムを購入。

20:00 再びバーリントン空港へ。静岡の友だちKがこの時間の便で来るというのでとりあえず出迎え。
すでに5日からアメリカに入っているHとDがKを迎えに来ることになっていたが、実は、この2人がちゃんと迎えに来るかも心配だった。



心配をよそにHとD到着。暇で昨日からバ−リントン入りしていたとのこと。タイミングよくKも到着口から出て来た。
「会場で偶然会えるかなあ。会えなければ日本でね」と言って彼らとはこれで別れる。



私達が静岡の連れと話している間、たつにぃは、ずっとメールしてた。


それから腹ごしらえ。空港で食べるつもりがレストランはすでにクローズ。さっき通った道でバーガーキングを見かけたのでそこへ向かう。バーガーキング大好きな旦那は「さっそくバーキンだ」と喜んでいる。とりあえず、3人で地図を確認。ハーツでもらったものはハイウェイを行くコース。私がyahooで出力してきた地図は、下道の100号を行くコース。
さっき空港で会った人に、今の時点で9時間くらい渋滞らしいと聞いていたので、きっとハイウェイを降りた付近からだろうなあと話す。でも9時間なら、明日の朝には会場入りだ。地図もわかりやすいし、ハーツで教えてもらったハイウェイのコースで向かうことに決定。

再び空港へ戻り、22:46着予定のしおちゃんを待つ。
ここでMINAWAさんあゆみちゃんと再開。彼らも同行の友だちを待っていた。
しおちゃんの便は予定より早く到着した。昼間の便よりも沢山の日本人が乗っていた。もちろんみんな目指すはPHISH。Sakebongさんともここで初対面。キモックM/Lではお話をしていたのだけど会えてよかった。
日本人の何人かと話しをすると、今夜はホテルに泊まる人、私達のように夜走る人にわかれていた。どちらにしても「会場で!」を合い言葉にここで別れた。

23:00 出発

おっかなびっくりの私の運転。他の3人は、本当に私なんかの運転でよいのだろうか。6年前からほとんど運転していないのだけど・・・(というのは黙っておいた)。けっこう雨も強くて視界が悪い。2号を西に向かい89号の入り口へ向かう。早速『89』という標識が見える。「あれ、ここを入るの?」と私が聞くと、「そう」と誰かが答えた。入ってみると、なんか違う。southの入り口へ入るところをいきなりnorthに入ってしまっていた。番号だけ見ていてもダメなんだと今さら気付く。パニクる私。「ひょえ〜どうしよう〜」。たつにぃが「次ぎの出口をでて」と言ったのが聞こえ、目の前に現れた出口を降りる。すると、そのままsouthへ入るレ−ンにつながっていた。ふたたび89号に入りなおす。ホッと一安心。しかし、私は雨で全然センターラインが見えない。左右にフラフラと蛇行運転。とにかく低速で行こうとlimitの60で走り続けた。
途中の出口で89を降りて国道2号へ入る。たつにぃのナビに従って走っていくと・・「ごめん。さっき曲がるところ間違えた・・・」とたつにぃ。たいして走っていないし気を取り直してUターン。すぐに元の場所へ戻る。しかし、ここから先のこの2号がけっこう長かった。ほとんどが山の中のような道で、ただひたすらに真っ暗だった。でも対向車もこないし、後ろに着く車もめったにいなかったので私にとっては運転しやすかった。

8月13日@Vermont

1時間程して91号のハイウェイに入る。今度は順調に合流。目指すは26番出口。21.22と順番に出口を過ぎて行く。近付いてるって思うとだんだん気分も盛り上がってきた。「いったいどのあたりから渋滞するんだろうね〜」なんてお気楽に話ながら走り続けた。24番出口を過ぎ、さあ、もう近いぞと思ったとき、前方に車のライトの列が見えた。渋滞だ。時刻は午前1時過ぎ。「予想していたよりも長くなってるね」と話す。「それでも早ければ朝方には着くだろう」と旦那。たつにぃとしおちゃんはすでに眠りに落ちていた。
そのままアイドリングを続けて3時くらいまで待つ。もうずいぶんと全く進んでいない。サイドブレーキは引いたまま、窓も曇ったままだ。
ちょっとエンジンを切って外の様子を見ることにした。すると、私以外の車はみんなとっくにエンジンを止めていた。ラジオを聞いていたので周りがエンジンを切ったことに気付かなかった。そうか、もうみんな今晩は動く気がないんだ。ちょっと呆然。今なら左の追い越し車線に移って先を目指すこともできる。でも、オフィシャルの注意事項には、『とにかく26番出口から合流してこい。ほかの出口から来ても戻らせる』というようなことが書いてあった。先がどうなっているのかわからないし、車が少し会場に近付いたからといって、早く中に入れるとは限らない。とりあえず、夜が明ければ渋滞も動くだろうし、昼には会場に着きそうだ。
私達も他の車と同様にエンジンを止めて仮眠した。



05:30 突然、前の車のテールランプが点灯した。いよいよ動くんだ!私もすぐにエンジンをかける。車両2台分ほど前に進む。それからまたずっと停止したまま。「どうなってんの?!」。ふとルームミラーに目をやると、私から後ろの車が一斉にウィンカーを出して、左レーンになだれ込んでいる。しびれをきらしていたのは私だけではなかった。でも、やっぱり先の様子がわからないだけに、この列を離れる決断はできなかった。
すぐにまた、私の後ろも元通りの渋滞に戻った。




お疲れモードな後ろ2人組。


まだわりと元気。


MOOSEといえば、SKBです。思わずミッチーの顔が浮かんでしまった。

その後、すこおしずつは進んだのだったかな?もう記憶が曖昧。エンジンをかけたり止めたりを繰り返した記憶はある。恐らく数メートルは進んだのだと思う。
みんな空腹で起き出す。サンドイッチを作って食べる。うまい。チーズもハムもいい味。しかし、ひとり2つずつですでにパンが終了。チーズとハムが余ってしまった。水も飲もうと取り出して蓋をあけるとなんだか柑橘系の香り。うわっ、これ水じゃなくてライムウォーターじゃん。それを選んだのは私。しかも御丁寧にひとり2本ずつある。「ごめん」。なんでライム味なんてつけるのよ。普通の水が飲みたいのに〜。コーヒーを入れたりする前に気付いてよかったけど。

10:00 「夕方には着くといいね・・・」だんだんと言葉に力がなくなる。かなり強い眠気が襲う。ここで旦那と運転を交代。私はしばらく爆睡。
旦那の話によると、その後パトカーがやってきて、右の側道に寄るように指示されたそうだ。しかし、右に寄ったら、さっきまでいた本線の右レーンもすぐに一杯になり、出口への渋滞はいつの間にか2列になってしまった。



私が眠りこけている間に、このTシャツを歩いて売ってまわっている人がいたのでしおちゃんが購入したそうだ。
きっとTシャツを売る人も今日のうちに会場入りのつもりだったのだろう。



渋滞でずっと隣同士だったスペイン人。自分で作ったこの版画を旦那にプレゼントしてくれた。日本から来ているファンもすごいけど、スペインから来るというのもかなりのヘッズだ。彼女と2人だったのだけど、2人ともとても陽気で、冗談ばかり言っていた。「コンサートは中止だから、車をひきかえせってラジオで言ってるよ」と彼。すかさず彼女が「この人はいつも冗談ばっかり言うの」と言った。みんなで笑った。まだこの時点では冗談だったんだけどね・・・。

14:00 とっくに車のエンジンは切ってあった。車から降りて椅子を出し、ビールを飲みながら談笑している姿があちこちに見える。バーベキューをしている人たちまでいる。他もスケボーやチャリで遊んでいる。
こんな状況、日本じゃ考えられないな。いくら渋滞していてもたぶんエンジンを切ることはないし、ましてやハイウェイで車の外に出てくつろいでいるなんて!もう半日以上こんな状況だから、なんとなく慣れてきたにしても、私にはこの血は流れていないなぁと思った。




とにかく、いつになったら着くのかけっこう不安なのだけど、私達みたいな初心者よりも、この渋滞で楽しんでいる彼らはこんな経験は何度もしているはずだ。そんな彼らが焦る様子もなく過ごしているのだから、きっといつかはこの列も動き出すに違いないと信じることにした。そうしないとやってられない。とりあえずまだショウまで1日余裕があるのだ。
歩いてくる人は、ビールやら何やら買い込んでくる。どこかに店があるらしい。たつにぃが散歩がてら様子を見に行った。1時間ほどしてビールを持って戻ってきた。おー、ビール飲みたかったんだよ。30分ほど歩いたところに25番出口があって、そこを降りたところにガソリンスタンドと売店があったそうだ。



我々の愛車。FORDの何とか。車種なんてみなかったなぁ。zepさんのまねをしてレンタカーに魚ステッカーを貼ってみた。
旦那が出発前から"やってみたいこと"のひとつだったのだ。
私はレンタカーに直に貼るのが不安だったので、日本でマグネットシートに貼って持ってきたのだけど。



穴があくほど見たよ、これ。
道はわかりやすいからそんなに見なくてもいいんだけど、何せ暇だから。


夕方から強い雨がずっと続いている。前の様子は全く見えない状態が続いた。時折、空気を入れ替えるために窓を開けたけれど、たくさん車内に吹き込んでくるのであまり長くは窓を開けていられなかった。

8月14日@Vermont

結局、昨日の晩からほとんど進展もなく夜になった。相変わらず、どの車も死んだように息をひそめてその場にじっとしていた。
車内でもさすがに疲労と空腹でみんなしゃべらない。でもやっばり「お腹すいた・・」。すると自分からはめったにしゃべらないしおちゃん、「昼間これ買ってきたんですけど・・・」と差し出したのはチェリーパイ。しおちゃんも明るいときに売店まで行っていたのだ。気がきくじゃないの。けっこうずっしり重くて腹持ちもよかった。
夜中に、隣のレーンの渋滞の列から私達のすぐ横の車が移動した。これで私達の車は左に脱出できる。とりあえず、ひとつ左へ移動する。他の車は寝ているのか全く動かない。ここで相談。「どうしよう、左レーンに出て渋滞抜けてみる?でもねぇ、先はわからないしねぇ」「行ってみる?」「でもな〜」そんな感じで4人ともどうしても決定できない。結局、前で渋滞している人たちも運命共同体なのだし、明日の朝考えようということになった。最悪、歩けば5.6時間だ。明日の朝の決断でもショウには間に合う。1つ先の27番出口まで行って、どこかに駐車させてもらってもいいし。もしもそれでさらにひどい渋滞にはまったら、14日のショウはあきらめよう。最終日だけでも見られればいいよということで皆納得。寝る。

04:00 目覚めて起きるが相変わらず前方の車はみんな死んでいる。


私達の車は、昨日のアイドリングでけっこうガソリンが減っていた。私が「会場に近くなってスタンドがなくなると不安だし、とりあえず少し買っておこう」と言うと、旦那が「でも店はまだ開いてないんじゃないの?」と言った。でも、ポリタンクを抱えて私達の車の隣を何人かが歩いて過ぎて行く。私達二人はまだ店に行ったこともなかったし、食料調達と朝の散歩も兼ねてスタンドへ行ってみることにした。
外に椅子を出したままシュラフにくるまって寝ている人がいた。なぜ車で寝ないかなぁ。けっこう外は冷えるのに。
しばらく行くと、まだ早い時間なのに4人くらいで車をかこんでいる連中がいる。近付いてみると「You can do it!」と繰り返す男。その隣には針金を持った男。なんとこの車インロックをしてしまったようで、ずいぶんと長くこの状況らしい。作業は1人しかできないので、他はずっとそいつを励ましている。仲間の一人は疲れ果ててボンネットの上で寝ていた。
20分ほどで25番出口についた。ここに停まっていた渋滞の中のキャンピングカーはタープまで引き出している。まったく動く気がないんだ。やれやれ。こんな人たちの後ろにおとなしく繋がっていていいのか、また不安になる。

そこから10分ほどでガソリンスタンドについた。ガソリンはポリタンク付5ガロンで$45。べらぼうに高いが仕方ない。他にエビアンを買う。レジの横に手作りステッカーがあったのでそれも数枚購入。
5ガロンが何リットルかわからずに買ったのだけど、20リットル近い量だった。旦那は数メートルでよろよろ。戻る途中にフードコートがあったので食パンとコーヒーを買う。車に戻るまで旦那がずっとガソリンを持ってくれた。行きには「肌寒いなぁ」と言っていたのに、帰りは「あち〜、あち〜」と汗だくだった。
ガソリンを持って戻ってきた旦那にたつにぃびっくり。「これをかついでくりゃ、それはしんどいよ。本当にお疲れさま〜」とねぎらってくれた。


 さっそく給油。先輩3人から命令されるしおちゃん。汚れ仕事を年下に押し付ける私達(笑)。
しかし、手元が危ない。しおちゃん細いしなぁ。途中ザバザバとガソリンがこぼれる。
「こら、もったいない。しっかり持ちなさい!」と喝を入れる。
「重い・・」としおちゃん。それを聞いた旦那「俺はそれを30分も運んできたんだぞ〜。」
しおちゃん、反論できず、ポリタンクをしっかり持ち直す。
どうにか給油を完了して、買ってきたパンでサンドイッチを作って食べる。うまい。



明るくなって人は車から出てきたりしていたが、車は相変わらず停止状態。

私達はすることもないので車でラジオを聞いていた。
しばらくすると外にいる人たちの様子がどうもおかしい。女の子が「fuck!!!!」と絶叫している。何事?!すると、ずっと一緒だったスペイン人の彼が私達の車にやってきた。旦那が窓をあけると、「よく聞け。これは本当の話し。会場の駐車場にもう車が入れなくなった。チケットは払い戻すと今マイクがラジオで言ったんだ」と冗談を言っていた顔とは別人のシリアスな顔で言った。私達もちゃんとオフィシャルの92.1FMをかけていたのに誰もその発言には気付かなかった。
「どうしよう」。私は車を降りて、今教えてくれた彼にどうするのか聞いてみた。彼は「わからない。たぶん車を置いて行く人が多いだろう。でも、ポリスの判断もわからないし、僕はどうしていいのかわからない」と言った。別のアメリカ人にもどうするのかと尋ねたら、彼は一言「no idea」と言った。
私達は昨日話し合ったとおり、すでに歩く覚悟はできていた。

すぐに車を左レーンに移して前に進む。遠かった25番出口は車ではあっという間だった。私達同様前進する車もあれば、即座にUターンをしている車もいた。
本来降りる予定だった26番出口は恐らく混んでいるだろう。私達の前方も列ができはじめている。25番を過ぎると、すでに側道に停車して歩く準備をしている車が連なっていた。私が助手席から「歩くの?」と聞くと笑顔で「そうだよ。早く車をとめたほうがいいよ」と言われた。
私はハイウェイに車を置いて行くことにとても抵抗があったのだけど、無数に並んだそこの列を見ているうちに安心した。よしっ、この際この辺に乗り捨てるしかない。
しかし、側道はどんどん停車する車で埋まっていく。そのとき、ちょうどすぐ前の側道にいた車が本線に車を出したのだ。あそこしかない。運転しているたつにぃに「あの場所、ほらっ」と言って急かす。狭いスペースながらも、たつにぃがきっちり駐車してくれた。私が運転席にいなくてよかった。
早速車に置いていくものと持っていくものをわける。といっても私のバックはカートになっていたので、ほとんどそのまま持って行くことにした。旦那はショルダーのスポーツバック。かなり減らしたものの、テントが入っているので重量はそうとうなもの。しおちゃんもカート付の旅行バック。たつにぃはスポーツバックから必要な荷物だけをリュックに詰め替えた。
空港を出発してから35時間。やっと車から離れることができた。


10:00 いざ出発。



きっととてつもない距離を歩くのだろうが、今からなら絶対に今夜のショウには間に合う。自分の足が一番信用できる。
しかし20マイル以上あると聞いても、とっさにキロで距離がわからないところがいい。





歩き始めてすぐに、アメリカ人らしき若い女の子に「You are crazy!」と言われたので、私はにっこり笑って「Yes!」と答えた。彼女も笑っていた。だって彼女も今から歩くのだから。
なんだかわからないけれど、私はこの状況がとても楽しかった。普段から歩くのは好きだし、天気もいいし、景色もいい。そして、こうして歩けばPHISHに会える。しかもカ−ト付荷物は重さをあまり感じない。



1時間ほど歩いたところで、警察がここでハイウェイを封鎖して、
ここまで来た車両はすべてsouthのレーンにUターンさせていた。
それを見て、ここまで車で来なくてよかったとホッとする。きっとすべての選択がいい方向に向いているのだ。
しかし、警察官は普通にでかい銃なんか持っていてかなり恐いんだけど・・。



ずっと見たかった26番出口に到着。車の降り口は右側だけど、車ではないのでみんな左へショートカット。southレーンを普通にぞろぞろと横断して、ハイウェイの芝の傾斜を下って進む。ここから5号線に入る。

5号も車が長い列をなしている。これじゃ、ハイウェイと合流なんてできるわけないわ。
ちょうど5号を歩き始めた人たちが、ハイウェイから降りて来た私達の流れを見て盛り上がる。みんななんとなく変な団結感ができていた。
5号で渋滞にはまった車はかえって中途半端で悲惨だった。前にも進まないが乗り捨てもできない。停止したままの車から、横を歩いて通り過ぎて行く人たちをただ見ているしかない。どの道を選んでも、それぞれにいろいろ違った苦労をしているのだと思った。




窓にはGotta Jibbooの文字。彼らはこの晩この曲を聞けているといいのだけど。


道沿いには、地元の方がいろんなお店を出してファンを歓迎していました。

5号に入って少し歩いたところで、日本人の女の子を追い越したので「こんにちは」と声をかけた。彼女は笑顔でかえしてくれたけれど、とても辛そうだった。聞いてみると、昨日の晩バ−リントン空港に到着し、そのまま車を飛ばしてきたものの渋滞にはまり、朝のラジオを聞いて5号に車を捨てて来たそうだ。ほんんど寝ていないだろうし、それはしんどいだろう。同じグループの男の子も「もう泣きそうっすよ」と言っていた。彼らもめげずに無事に着いていてほしい。
途中で旦那が来ないので待っていたら、渋滞にはまっている日本人を見かけて話をしてきたということだった。やっぱり今回は日本人が多い。彼らも会場まで着いたのかな。
旦那はかなりへばってきていた。「荷物交換するよ」と言っても「いや、いい」と言い続けた。所詮私が持ったところで、たいして進めないだろうけれど。旦那曰く「帰りのために元気な奴を残しておかないと」ということだ。一応やさしさだと受け止めておくことにした。




だいたい3時間くらい歩いたところだと思う。顔はやや疲れ気味。
イメージよりも5号に入ってからが遠かったからなぁ。上り坂だし。


途中の売店でノドを潤す。よく冷えたジュースが体に染み渡っていく。この売店の若いお姉ちゃんが「CD持って行く?」とすぐ横にあった小さな段ボールを指さした。その箱にはマジックで"free CD"とある。何の音かよく見なかったけれど、せっかくフリーだし「Thank you!」と言ってもらってきた。
それは"YONDER MOUNTAIN STRING BAND"の09/21/03だった。どうも9月に発売されるCDの宣伝用のようだ。←シャレじゃないですよ。
こういうことも歩けばこその出来事でうれしかった。
途中の売店ではちょっと変なTシャツも売っていたのでそれも買った。会場ではこのTシャツを売っているのはみかけなかったな。




5号からエアポートへのショートカット。
草原にはすでに先を歩いた人たちのおかげですっかりケモノ道が出来上がっていた。
しかし、カートの私としおちゃんにはつらい道。荷物を抱えて歩く。


ここから先は砂埃の舞う、農道に入った。そして繰り返すアップダウン。長〜い上り坂をやっとの思いで超えると、また正面に同じくらいの上り坂が見える。延々これの繰り返し。一山ごとに「この山を超えたらそろそろかな」と考えるが、うらぎられ続けた。




とうもろこし畑の続くのどかな風景が続く。空は快晴。風も心地よい。
だいぶこの風に助けられている。ただ、おまけにけっこうな砂埃もたてるけれど。



牛も驚いて歩く人たちを見ていた。こんなに大勢の人を見たのはきっと初めてだろう。
たつにぃが「しぼりたて牛乳とか売ってないかな?」と言う。
「普段はこの道をこんなに人が行き交うことはないだろうし、まちがいなく牛乳は売ってないだろうねぇ」と話した。
だいたい、今絞り立ての生暖かいミルクは飲みたくないけどなぁ。たつにぃっておもしろい。
COVENTRYのイメージが牛というのがわかる気がした。道中では放牧されている牛も見かけた。


歩いている途中で、「こんにちは」と話し掛けられた。見るとアメリカ人。つい先日まで四国に2年ほど住んでいたということで、とても自然な日本語だった。もう15回もPHISHのショウを見ているそうだ。彼といろいろと話をしながら歩いた。
私達の歩いている横を、人を乗せたトラックが何度か通り過ぎる。地元の人がピックアップしてくれているようだ。狭い荷台に10人以上がぎゅうぎゅうになって乗っているのだけど、もうとにかくそれに乗りたかった。
タイミングよく、私達もトラックを拾うことができた。料金は1人$5。あとどのくらいの距離かわからないけど、安いもんだ。四国に住んでいた彼も一緒に乗った。
10分ほどで降ろされたが、その道中を車上から眺めていて、車を拾ったことが正解だったとわかった。この道のりが$5なんて本当に安かった。車でふたやまは超えたと思う。




2つ目の山を超えたときにテントサイトが見えて、車に乗っていたみんなで拍手をした。
ついにここまで辿り着いたのだ。
時計を見ると14時を過ぎたところ。まだまだ余裕がある。



降ろされたところは、ステージエリアのすぐ脇だった。
まだゲートは開けていないのでガランと広い土地が広がり、遠くに小さくステージが見えた。



ステージを右に見ながら、前の人の列に続いた。
今度は人の渋滞。ほとんど前に進まない。一体どうなっているのか。


左側にはテントサイトが広がり、柵の向こうからこちらの列に手を振っている。いいなぁ。彼らはもう会場の中にいる。柵の向こうとこちらでは天国と地獄だね。というものの、地獄というほどひどくはないけれど。だって今現実にここにいるのだから。もうしばらくすれば私も柵の向こう側なんだ。
それにしても列が動かない。あっという間に15時になっていた。途中に、段ボールが積まれていて、中に何か書類のようなものが入っている。
その場所まで遠かったのだけど、なんとか人込みをかき分けて手にする。中を見る間がないので、とりあえず片手につかめるだけ持ってきた。
みんなのところに戻って広げるとサイトマップだった。これでやっと自分達の居場所がわかった。わざわざ取りにいった甲斐があった。地図によるとゲートは間もなくだった。

四国に住んでいた彼と結局ここまで一緒だった。彼に私のチケットがWillCallなんだと話しをしたら、「あのWillCallの看板の出ている窓口にいけば大丈夫」と教えてくれた。このまま真横につっきればすぐなのに。
ゲート付近で係の女性が拡声器で怒鳴っている。どうやら、「徒歩用のレーンをはみでないように」と指示しているようだった。しかし、そのレーンがものすごく狭い。この人の渋滞はそのせいだとわかった。歩いている人はみんなブーイングを始めた。こんなことをしていたらショウに間に合わないかもしれない。みんな同じ心境だ。

私はどうせ先にWilLcall窓口に行かなくてはいけないので、人込みの右手を大回りして前に進んだ。折り返し地点まで着くと急に人の流れがよくなった。結局運営側は車の入場レーンを一旦止めて、人のためにすべてのゲートをオープンした。これで一気に人の流れはよくなった。




入場ゲート。

WillCallは10人ちょっと並んでいた。初めてで緊張していたものの、オーダーをプリントアウトしたものと、パスポート、クレジットカードを渡したらすぐにチケットを渡された。




チケットはなんとオフィシャルと同じたんぽぽの絵柄のチケットだった。うれしい。


やっとブルーの腕輪装着。これだけでちょっと泣きそうになる。
あきらめなくてよかった。時刻はすでに16時近い。いよいよ中へ。